私の問題意識ですが、これは私の研究（今までの研究とこれからの研究課題とがあります）と重なる部分が多いと思います。
とりあえず、列挙してみますと、1.資本論の研究とその成立史の研究　２.資本論と宇野経済学　３.サービス労働論　４.金融論5.スターリン哲学、経済学批判　などです。そして、現在は2.の資本論と宇野経済学と　３.のサービス労働論のほんの一部を取り上げてみました
以下の論稿はある他の研究者や研究団体のサイトのＢＢＳ（質問、意見の掲示板）に投稿したものを、一部書きなおしたもので、書きおろしではないので論点がはっきりしない部分もあります。いずれ書き下ろした論文を掲載したいと思いますが、まだこのサイトを立ち上げたばかりなので、ご勘弁のほど、よろしくお願いします。2003/07 NEW ! 1930年代の世界経済　03.12.21

宇野理論の原理論と段階論

私は宇野理論についてはそれほどはくわしくはないので、少しだけコメントさせていただきます。
原理論というのが、水に例えればＨ2Ｏでこれが、純粋資本主義だと思います。宇野は反復的規則性という、物理学で何度
実験しても同じ結果になるようものを科学であるとしたと思います。つまり、物体落下の法則のようなものです。自然科学法則と社会科学あるいは経済法則とは異なることは言うまでもありませんが、類似性（analogy）として共通な面があることは事実です。まず、宇野は、原始的蓄積は歴史的に一度だけだとして、原理論から排除し、それを段階論として設定しました。段階論というのは、宇野弘蔵の著「経済政策論」に記されているものです。

資本の支配的蓄積様式をタイプ化し、どのような経済政策をとるかということです。歴史における商人の役割を重視するので、段階論ではA.重商主義が。Ｇ－Ｗ－Ｇ'が、商人資本的蓄積、B.自由主義がＧーＷ(A,Pm)・・Ｐ･･Ｗ’－Ｇ’で産業資本的蓄積、C.帝国主義が、固定資本、生産手段の巨大化などによる、また株券、証券などが多くもちいられるようになり集中、集積が強まり独占、金融資本的蓄積というように蓄積様式でタイプ化しました。
商人の役割の重視ということは大塚久雄などとは資本主義成立の原理が違っているということです。
具体的には、大塚はイギリス、フランスなどの封建社会の末期に現れた中産的生産者層（yeomanry）=独立自営農民や独立手工業者　の両極分解により資本主義の成立を論じているということです。

さらに、各々の主用な産業と主導国をＡ.は羊毛であり、イギリス、Ｂ.は綿織物工業、でやはりイギリス、Ｃ.は鉄鋼業などの重化学工業で、支配的典型国はドイツ、アメリカなどとしました。
そして、典型的帝国主義段階を第一次世界大戦をまでとして、それ以降を現代資本主義、現代帝国主義分析は現状分析でとらえるようにしたのです。

ところで、その疑問点の一つは、資本主義といった場合、いかに純粋といったところで、下部構造のみでは資本主義とはいえないのではないか、上部構造や国家権力を簡単に捨象してしまってよいのかと言う疑問が残ります。
資本論もやはり下部構造のみの分析なのでしょうか。
そうではありません。資本論においては、もちろん、下部構造の分析が主となっていますが、国家の問題、イデオロギーの問題＝上部構造の問題は貨幣論、剰余価値論、信用論などいたるところにでてきているということです。
また、資本論の成立史をみれば、わかるように、「経済学批判要綱」などのプランで、国家、国際貿易などを考慮にいれたのではないか、もっと長生きしていれば、資本論、二部、三部も自らの手により完成したのではないか。また、国際貿易、や世界市場、国家の点についても理論分析をなしとげたのではないか、と考えられます。
資本論の問題は初期、中期､後期、晩年のマルクスとの関係で論じなければなければ、木を見て森を見ない誤りに
陥るのではないかと思います。

もうひとつは、二重の意味で自由の労働者の出現と資本家の成立を意味する、あるいは生産者と生産手段の分離を示す、原蓄はイギリスのみの一回事象であるのか、そうではなくて、資本主義が終わるまで、日々刻々とくりかえされていくものではないか、との疑問もあります。この点については各国々によって、時間的、時代的ズレもあります。
もちろん、資本論において　原始的蓄積　というものはイギリス及び西ヨーロッパが中心となりますのである時期にかぎられたものでもあります。

また、毎日の労働者の成立、すなわち、生産者と生産手段の分離とも、原理論論的にはちがっているにせよ、社会の発展にともなって、また労働力の維持、再生産ということによって日々刻々とおこなわれているというべきでしょう。
この原始的蓄積などまで、原理論（宇野の原論とは違った意味での）から除外してしまってはマルクスのなしとげた、成果を台無ししているとしか思えません

純粋資本主義とはなにか？
　
資本論第一巻序文のなかで、マルクスは、「経済諸形態の分析では、顕微鏡も化学的試薬も用いるわけにはいかぬ。抽象力なるものがこの両者に代わらなければならない」と述べています。
実験が不可能な社会科学での分析では”抽象力”でそれをおこなうということは差異性、異質性のことをいっているのだと思います。
そのあとで、「物理学者は､自然過程を攪乱的影響に混濁されることもっとも少なく、現れる場合をとるか、あるいは、可能な場合には実験を､過程の純粋な進行が確保される条件のもとでおこなうのである。」とのべられています。このことは科学実験もまた”抽象＝捨象”による純粋ななかで行われなければならないということで
類似性を示しています。
ところで、この抽象ということですが、原語は確かabstrahierenで、捨象する、度外視する、無視する　というような意味で日本語での抽象とは若干意味が異なっています。
そして、抽象して＝不純な要素を捨象していって本質にせまるというのが社会科学であるとしているようです。いわゆる純粋資本主義です。
この点においてはマルクスも宇野もかわりがないようですが、どこまで捨象するのか、という点で異なるのではないでしょうか。後は、歴史的抽象、観念的抽象というような捉え方にも問題があるようです。純粋化はわかりますが、イデオロギーや歴史性、原蓄まで捨象して良いのかは､三段階論などの理論構築の違いであるにせよやはり、問題になる点です

資本の文明化作　宇野の純粋資本主義について

まず、資本の文明化作用論について」マルクスは弁証法論者なので２つの側面から把握しなければならないと思います。つまり、肯定面と否定面とで。資本主義や植民地主義を絶対悪としてはとらえてはいないということです。
資本の文明化作用論というのは、中期マルクスの、グルントリッセ（経済学批判要綱）に書かれていたもので、引用されたものは、読んだことがありますが、植民地といっても、帝国主義段階以前のものと思われます。大半の評価は否定的なみかたであると思います。
そのへんの評価に対して、私は疑問を抱いております。もちろん、マルクスやエンゲルスが書いたものがすべてが正しいわ
けではありません。資本論では外国貿易、植民地などは、ほとんど捨象されております。が、資本主義と、一般的に言った場合、当然そこには、外国貿易、植民地獲得競争も、含まれることになります。そこには、原住民など殺りくをも含んだ、残虐な収奪といった否定的な側面がある一方で、資本主義に対する抵抗闘争をも呼び起
こし、原始的あるいは中世的、封建的な紐帯を断ち切り、文明化するという肯定的、進歩的な側面があることも否めないのではないかと思います。この両面から捉えるということは、あくまで、弁証法的に捉えるということであって、決して進歩的な側面を正当化する考えではないということはもちろんです
この問題に関係して、次のようなことが過去のロシアにおいて論議されました。
資本主義を通らず、一挙に、社会主義に、直行できるかどうか、でロシアのナロードニキ（人民主義者）、その一人であ
るザスーリッチ（ナロードニキの1派の女性革命家）、晩年のマルクス、エンゲルス、レーニンなどで、多少の時代的なズレはあるとしても、論争も起こりました。資本論およびその原始的蓄積は、西ヨーロッパのみに適応しているのかどうか、また、資本主義は単系的ではなく、複線的に発展するのではないかなども議論になりました。　また、西洋文明中心の歴史観史観に対して、アメリカインデアンなど原住民の立場からの歴史として見直されるなど、またS.アミン、フランクなどの従属理論の立場にたつ人達の、低開発諸国の被抑圧民族の人民などの側の立場に立った考えなどいろいろ、論議のあるところだと思います。
　次に、私は直接は知らないのですがかつては、スターリン経済学が絶対化され、ソ連の「経済学教科書」などが権威を持っていたと聞きます。しかし、それが、序々に批判され、その中の一つとして、宇野経済学がでてきたともいえます。したがって、宇野はその意味で捉える限りでは、ポジティブであるともいえます。がその限りでしかないのです。ところで、私はレッテルによる学問の区分けには、少々疑問をもっておりますが、故佐藤金三郎氏の本などによりますと、宇野学派の中で、論理派が三段階論者で、歴史派が世界資本主義派、正統派のなかでも論理派と歴史派に分かれ、市民社会派、その他、私が付け加えれば構改派、広松派、向坂派、世界システム派、（新）従属学派、富塚派、大塚史学派などです。これらは、反宇野派というより非宇野派です。先にも述べたように、資本論やマルクス、エンゲルス、レーニンなどを、現代では、すべて正しいと考えている人や学派はほとんどいないといってよいでしょう。
ただ、宇野学派の理論は体系化されていて、いまだに、体系そのものへ根本的な批判は一部しかなされていないようです。資本論の個別的なところでは、いろいろ、論議がなされ、宇野学派の中でさえ、宇野弘蔵が述べたこと、すべてが正しいなどとは、考えていないと、思います。　
ついで、宇野学派の純粋科学主義について」科学には数多くのパラダイムがあり、一つの科学主義を絶対化した場合には、イデオロギー化するのではないかということです。又、科学は上部構造に位置するとの考えもあります。そのへんのところも問題です。

以上、宇野理論についてはこれからまた、別項にて批判的に検討して
ゆきたいと思いいます。
　
生産的労働と不生産的労働と、いわゆるサービス労働について

以下の論稿、疑問点は主として、Ａ氏著作集、論文に関してです。

1.生産的労働には「本来規定」と「形態的規定」とがあります。スミスの時代においては、国を富ませるといった意味で、肯定的に捉えられているが、マルクスの場合そうではないのではないか。剰余価値の生産は搾取ということにつながるし、生産的か不産的かということも、直接的搾取か、間接的搾取かということでしかないのではないだろうか。もちろん、Ｂ氏のように、未来の社会主義社会での生産的労働を考えると、生産的労働に対する見方も変わってきますが・・・。
ただＡ氏の論調は、生産的労働に兵器産業の労働や風俗産業の労働を含めたことについて、極めて道徳的な面からのみとらえているように思えます。
また、労働力の価値規定＝労働力の再生産費に、、テレビなどブルジョア文化やイデオロギーを入れたということで、Ｂ氏を非難しています。

それでは、労働力の再生産費とはなんでしょうか。
a.労働者自身の維持費 b.労働者の家族の生活費＝生活資料と医療など　のサービス　ｃ.労働力の養成費、修養費＝教育サービス費などである。
そして、維持費の中には、肉体的維持費と精神的維持費（社会的＝moralish）が入ります。後者の中には、日本の戦後の
時代を考えると、かつては月に一度映画を観るというような娯楽がありました。現在ではテレビやホームページを観ることも
、またカラオケ等々の娯楽も精神的維持費に入ってきます。そして、マルクスは、それは時代、国により異なってくると述べています。
このうち、教育サービス、修養費などに関してて言えば、それを与える側は、総資本＝国家であるのだから、当然ブルジョアに都合のよいような教育、マスコミイデオロギー、などの反動教育をも労働力の再生産費の中に入れてよいのは自明の理であろう。もちろん、そうした、教育やイデオロギーの攻勢に抗して、労働者も疑問を抱き、自然発生的にも、また自分
自身も自覚し、又労働者団体などの働きかけがあり、そうした教育を否定する部分が現れることはいうまでもないことです。
だが、このことと、労働力の再生産費＝労働力の価値規定の中に、どんな悪質な体制的イデオロギーを含めるかどうかとは、次元を異にしたことがらです。
私は、修養費＝職業訓練費＝教育費のなかには、資本家の使いやすいように労働者を教育すること、すなわち「人づくり」的な面がはいっていることはあきらかだと考えます。

　次に
２.「サービスも価値を生む」と言う論者（Ｂ氏を含めて）は、次のような問題提起をしているが、それに対して、どう反論するかです。
物的財貨のみに価値形成を認めるというのであれば、労働力商品の価値は、医療、教育、交通サービス料金の部分を含まないことになります。それらが、いかに生活のために必須なものであっても、労働力商品の場合に限って物的商品ではないもの＝サービスが価値をもつといわなければならないのではないかということです。労働力商品は一般商品とは異なる（特殊的）であると把握したとしても、どうも辻褄があわないようです。

　この問題もまた、数十年にわたって、生産的労働論争、商業労働論争、サービス労働論争、交通労働論争としておこなわれてきたもので、古典的著作、剰余価値学説史、資本論、などだけから、また２～３冊の本のみを槍玉に挙げ、批判してみても根本的には批判できないと思います。私もいずれ、この問題に関しての論文を発表したいと思います。

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