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１.社会科学とは
すべて科学は真理の探究にある。科学には、自然科学と社会科学がある。自然科学の場合は実験＝顕微鏡、天体望遠鏡などの発見により、また、化学試薬等の発達により、又実験により、その真理性は検証され、明らかになると思われます。
もちろん、自然科学にもパラダイムということがあり、ニュートン力学とアインシュタインの相対性理論などではパラダイムが異なるという考えもある。しかし、コペルニクス的転換ということは現在ではほとんどありえません。
、社会科学（主として経済学）においては実験は不可能である。したがって、その真理性をを検証するためには抽象力や統計を用いるアプローチの仕方がある。そのほかには、経済学においては、特に近代経済学における数学を使った、手法がある。もちろん、マルクス経済学においても数学をもちいる手法も少ないとは言え、ある。
もちろん、経済政策においては、時の政府がとる経済政策により、経済がうまくいったり、失敗に終わったというようなことも、当然ありうる。
しかし、その原論＝原理論の分野での正否を問うことは、やはりマルクスのいうような抽象力によらなければならないと思います。
ところで抽象力、抽象化＝抽象する、とはいったいどんなことでしょうか？抽象と言う言葉の反対は具体とでもいうべきでしょうか。
抽象するというのは英語ではabstract,ドイツ語ではabstrahierenで「捨象する」「度外視する」」「無視する」というような意味です。すなわち、真理を探究するためには余計なことを、不純なことをどんどん抜きさったり、捨象したりして真理に近づくということ、それが科学であるということです。現象から本質へ、表面から深部へと下向して行くのが､科学であるといえましょう。
ところで、人や社会も自然の一部であるということはいうまでもありません。そして、その自然の中から、人間は狩猟、漁労から、自然に働きかけ、自然を創り変え、又血縁、地縁共同体を作り上げてきたのです。それが、社会の基礎となるのです。したがって、社会科学も自然科学を基盤として出来上がってきたということはいうまでもありません。
マルクスはまた、「資本論」の序文のなかで「物理学者は､自然過程を攪乱的影響に混濁されることもっとも少なく、現れる場合をとるか、あるいは、可能な場合には実験を､過程の純粋な進行が確保される条件のもとでおこなうのである。」とのべています。このことは科学実験もまた”抽象＝捨象”による純粋ななかで行われなければならないということで類似性を示しています。
次に経済法則（社会科学））と自然法則(自然科学）は異なる点がある、ということから説明してまいりましょう。
それは、人間という類的存在が、各々、意思、考えを持って意識的に行動しているのが、社会であるからです。これ全く同一化することはやはり、誤りと言わねばならないでしょう。
ただ、差異性（difference）と同時に類似性（analogy）を考慮することも必要でしょう。、資本論やマルクスの経済学に関する著作を検討してみましょう。。
マルクスの著書「経済学批判」の「経済的社会構成体の発展をひとつの自然史的過程としてつかむ」 ということも、類似性としては正しくても、同時にその差異性ということを考えなければならないことは言うまでもありません。
ところで、資本論の中には、そのなかで、科学性ということを一定程度、明らかにしております。
先に述べた抽象力もそうですが、他の箇所でもマルクスは次のように述べています
資本論では第六篇１７章に「労働力の価値または価格の労賃への転化」というところがあります。
ここは､マルクスは本来、第三部の「収入とその源泉」のところで論じるつもりであったのが、まぎわになって、ここに入れたと聞きます。
ここでは労働と労働力の峻別、労働の対価、もしくは代価として現象面（ブルジョワ社会の表面）＝日常意識＝古典派や俗流経済学において捉えられている観念 を批判し、本質が労働力の価値であること をあきらかにしています。搾取、剰余価値の隠蔽の暴露がなされています。
このことは、日常意識、常識的考えは科学的分析を経て初めて、本質(すなわち真理)が解明されるということを示していると思います。
｢現象ではしばしば物が転倒されて（＝さかさまに）見えるということは、経済学以外のすべての科学ではかなり知られている。」１部原書Ｐ559
「事物の現象形態と本質が直接に一致するなら科学はすべて余計（＝必要ない）であろう」 ３部原書Ｐ826
このことは、社会科学（経済学）も自然科学の影響を受けたと考えられます。コペルニクスやガリレオの地動説の例は、現象は天が動いているようにみえるのに、自然科学的分析により本質は地球が動いているということを発見したことを示しています。
別の例をあげると、水の入ったコップや透明な水槽にハシを入れ、実際（本質）＝ハシは曲がっていないのに、外から見ると光の屈折により現象としては曲がっているように見えるということも現象と本質の相違ということ如実に表している例と言えます。
利潤、にしても労賃にしても、古典派や俗流経済学は日常意識＝現象にとらわれ本質をつかむことが出来なかったのではないかと思います。
そして、このことが「資本論」全体をとうして流れている根本的なマルクスの見解と言っても過言ではありません。
つまり、資本論第一部（一巻）が本質論であるならば、第三部（三巻）は現象論ということができます。
この辺のところは、別項、資本論講座の「資本論 の流れ」において詳述します。
以上例はあくまで一例で、やはり自然法則と経済法則とは、著しく、差異性のほうが重きをなすと言う例もあるかとも思います。
ただ、前記の､労働力の価値に関してなどは、経済法則も自然法則も類似性を持っているので自然科学で説明したほうがわかりやすいともいえると思います。経済法則（社会科学））と自然法則(自然科学）はいろいろな点で異なるとは言えると思いますが同一化できないにしろ、かなりの類
似性があるということを表していると思います。以上で前書きの科学ということについては終わります。
注
※上に記した”抽象力”ですが宇野弘蔵、宇野学派などは、この点のとらえ方が私とは異なると思います。
※abstraktion, abstraction には、不純なものから取り出す、という意味と、不純なものを切り捨てる、という両意があるようです。前者は抽象、後者は捨象、と日本語では訳し分けていると言われておりますが、真偽のほどは明らかではありません。